重要文化財とドローンNGを乗り越える視点:矢野事務所

重要文化財とドローンNGを乗り越える視点

 

 

このページはX(エックス)の投稿を深堀り解説したブログ記事です。

なぜ「重要文化財NG」は繰り返されるのか

ドローンで重要文化財を空撮しようと試みた際、「重要文化財NG」という壁に直面する事業者は少なくありません。

Xに投稿したように、TV局が続けて相談に訪れるほど、この問題は業界内で広く認識されています。

「重文側がOKでも行政側はNO」という状況は、なぜ繰り返されるのでしょうか。

これは単なる「手続きの難しさ」に留まらない、より根深い問題が背景にあります。

行政側の頑なな姿勢の背後には、過去の悲劇的な経験が横たわっていることが少なくありません。

投稿にも示唆されているように、以前に発生したドローン墜落による文化財損壊事故が、行政の判断に重くのしかかっている可能性が高いです。

文化財は一度損なわれると取り返しがつかないため、行政はたとえ可能性が低くとも、万が一のリスクを極限まで排除しようとする、極めて慎重な姿勢を取らざるを得ないのです。

航空法と文化財保護法:二重の壁を理解する

重要文化財周辺でのドローン飛行が困難なのは、航空法だけでなく、文化財保護法というもう一つの法的枠組みが深く関わってくるためです。

航空法における基本原則

航空法では、ドローンの飛行において「人又は物件との距離の確保」(航空法第132条の8)が求められ、特に建造物や第三者から30m未満での飛行は原則禁止されています。

重要文化財は「物件」の中でも特に保護すべき対象であり、この30m規制は厳格に適用されます。

また、「特定飛行(人口集中地区での飛行や目視外飛行など)」に該当すれば、国土交通大臣の許可・承認が不可欠です。

文化財保護法の重み

しかし、真の壁は航空法だけではありません。

重要文化財は、文化財保護法に基づき、その価値を損なわないよう厳重に保護されています。

文化庁や各地方自治体の文化財保護担当部署は、文化財の損傷を何よりも恐れます。

ドローンの飛行は、落下による物理的な損壊だけでなく、排ガス、振動、騒音、あるいはテロへの悪用といった、文化財の健全な保存に悪影響を及ぼす可能性も考慮されます。

たとえ航空法上の許可・承認が下りたとしても、文化財の管理者や所管する行政機関(文化庁、教育委員会など)が、独自の判断で飛行を認めないケースは多々あります。

彼らは、文化財保護法に基づく「管理」と「保全」の責任を負っており、その責任においてド律的な判断を下す権限があるため、「重文側がOKでも行政側はNO」という事態が生じるのです。


許可取りが「至難」である具体的な理由

TV局の担当者が「取り付く島もないほど頑な」と感じる背景には、単なる書類上のハードル以上のものがあります。

1. 過去の事故による不信感の増幅

Xの投稿が示唆するように、過去にドローンが墜落し、文化財に損壊を与えた事故は、行政側にとって大きなトラウマとなっています。

一度起きた事故は「前例」となり、その後の許可審査において、リスクに対する警戒レベルを飛躍的に引き上げます。

彼らは、「万が一」の事態が二度と起きないよう、極めてゼロリスクに近い判断を求められるため、たとえ合理的な飛行計画であっても、簡単には首を縦に振らない傾向があります。

2. 独自の審査基準と専門性の不足

文化庁や地方の文化財担当部署は、ドローンの飛行技術や安全対策に関する専門知識が必ずしも高いわけではありません。

そのため、提出された飛行計画や安全対策を適切に評価することが難しく、結果として「分からないから認めない」という保守的な判断に傾きがちです。

また、文化財の種類や状態、周辺環境によって、許容されるリスクの度合いも異なるため、画一的な判断が難しいという側面もあります。

3. 関係機関との多重協議

重要文化財の飛行許可を得るためには、国土交通省(航空局)への許可・承認申請だけでなく、文化庁、所管の地方公共団体(教育委員会、文化財課など)、文化財の管理者(寺社、城郭事務所など)、そして場合によっては警察や観光課など、複数の機関との綿密な調整と同意が必要となります。

これらの機関間で意見の相違があれば、許可は非常に困難になります。

「空撮資料」は文化庁自身が残すべきか

Xの投稿で最後に問いかけた「もはや空撮資料は文化庁自身が残していく他はないのでしょうか」という問いはいかがでしょうか。

ドローンを活用した空撮資料は、文化財の維持管理、劣化状況の記録、災害時の状況把握、そして学術研究や一般公開における資料として、極めて高い有用性を持っています。

文化庁自身がドローン活用を進める意義

文化庁や関連機関が自らドローンを運用することには、以下のような大きな意義があります。

  • 安全性の担保
    外部業者に依頼するよりも、自らが運用ルールや安全基準を策定し、訓練された職員が実施することで、より厳格な安全管理体制を構築できます。過去の事故の教訓を最大限に活かせます。
  • 長期的なデータ蓄積と活用
    定期的に同一の基準で空撮データを収集し、一元的に管理することで、文化財の経年変化や劣化状況を正確に把握し、予防保全や修復計画に活かすことが可能になります。
  • 迅速な状況把握
    災害発生時など、緊急を要する場面で、迅速に文化財の状況を空から確認し、被害状況を把握する上で、ドローンは極めて有効なツールとなります。
  • 社会への理解促進
    文化財の保護とドローン技術活用の両立モデルを文化庁自身が示すことで、社会全体の理解と受容性を高めることにも繋がります。

実現に向けた課題と可能性

もちろん、文化庁自身がドローン運用を進めるには、予算、専門人材の育成、機材の調達、飛行運用ノウハウの蓄積、そして万が一の事故に対する責任体制の明確化など、多くの課題が伴います。

しかし、これらの課題を乗り越え、文化庁が積極的にドローン技術を導入することは、文化財保護の新たな時代を切り拓く可能性を秘めています。

民間のドローン事業者と文化庁が連携し、技術提供や人材育成で協力する道も考えられます。

まとめ

重要文化財でのドローン飛行は、過去の事故の教訓、航空法と文化財保護法の二重の壁、そして行政側の慎重な姿勢により、依然として「至難」を極めます。

しかし、ドローンが文化財の維持管理や記録において持つ価値は計り知れません。

この現状を打開し、文化財保護とドローン技術の共存を実現するためには、単に「許可をください」と求めるだけでなく、行政側の懸念を深く理解し、それに対する具体的な安全対策と責任体制を明確に提示することが不可欠です。

そして、究極的には、文化庁自身がドローンの有用性を認識し、安全な運用体制を構築した上で、空撮資料の作成を進めることが、未来の文化財保護のあり方として期待しても良いのではないでしょうか。

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