「DID目視外」と「補助者なし」は両立可能か?

 

このページはX(エックス)の投稿を補足解説したブログ記事です。

この記事のタイトルはドローンの飛行許可制度のちょっと複雑で誤解しやすいポイントを突いた設問です。

今日は、この標準マニュアル等にある二つの記述が、どのように解釈され、実際の「DIDでの補助者なし目視外飛行」がどうなっているのかについて分かりやすく解説します。

紛らわしい理由

まずは、X(エックス)の投稿にある二つの記述が、それぞれ何を意味しているのか、そしてなぜそれが紛らわしいのかを見ていきましょう。

記述①:DID目視外は基本NG、やむを得ない場合は補助者必須

「DID(人口集中地区)での目視外飛行は基本的にダメ(NG)だけれど、業務上どうしても必要な場合は、補助者をしっかり置いて、安全確保をすれば許可する可能性もある」というこの記述。

これは、主に標準マニュアル02などに記載されている内容で、DIDという多くの人や建物がある場所での目視外飛行が、いかにリスクが高いかを示しています。

DIDでの目視外飛行は、万が一の事故の際に被害が大きくなる可能性が非常に高いため、原則として推奨されていません。

しかし、インフラ点検や災害状況の確認など、業務上どうしても目視外で飛ばす必要がある場面も存在します。

その場合に、最低限の安全対策として「飛行範囲やその周辺に第三者がいないかを目視で確認し、危険があれば即座に操縦者に伝えるための補助者」の配置が必須となる、という考え方です。

これは、補助者によるリアルタイムな監視によって、目視外飛行のリスクを少しでも減らそう、という意図に基づいています。

記述②:目視外は補助者必須だが立入管理区画に代えて良い

一方、「目視外飛行をするなら補助者は必要。ただし補助者の代わりに『立入管理区画』を設定しても良い」というこの記述。

これは、目視外飛行を行う際の安全対策として、補助者の配置が基本であることを示しつつ、特定の条件を満たせば、物理的な手段である「立入管理区画」をもって補助者を代替できる、というルールです。

これは、主に「無人地帯」での目視外飛行を想定した安全対策の考え方に関連しています。

「無人地帯」のように第三者の立ち入る可能性が低い場所であれば、フェンスや看板、コーンなどで飛行エリアを明確に区切り、「ここには入らないでください」と周知・管理することで、補助者による常時監視がなくても安全を確保できる可能性がある、という考え方に基づいています。

DID補助者なし目視外が簡単でない理由

さて、ここからが混乱していくポイントです。

「記述①で『DID目視外はやむを得ないなら補助者必須』と言っている。

記述②で『補助者は立入管理区画で代えて良い』と言っている。

ならば、DIDで目視外飛行をする際に、補助者の代わりに立入管理区画を設定すればOKなんじゃないか」

残念ながら、話はそう単純ではありません…。

ここに、それぞれの記述の「前提」となる安全確保の考え方の違いが隠されています。

記述②で補助者を「立入管理区画」で代えて良いとされるのは、先ほども触れたように、主に「第三者の立入りを確実に制限できる場所」を想定しています。

例えば、関係者以外が物理的に入れない、厳重に管理された私有地や施設内などです。

看板やコーンだけでは、「確実に」制限することは難しい、というのが航空局の基本的な考え方です。

一方、記述①の「DIDでの目視外」が想定しているのは、まさに「第三者の立入りを確実に制限することが難しい」、あるいは不特定の第三者がいつでも立ち入る可能性がある、DIDという環境です。

このような環境で目視外飛行を行う場合、看板やコーン程度の「立入管理区画」では、予測不能な第三者の出現に対応する安全を確保できないのです。

だからこそ、記述①では、やむを得ない場合に「補助者によるリアルタイムな監視」が必須とされているのです。

つまり、記述②の「補助者を立入管理区画で代えて良い」というルールは、「第三者を確実に制限できる」という前提条件があって初めて成立するものです。

この前提条件は、一般的なDID環境では通常満たされません。

したがって、DIDという環境下で記述①の「補助者必須」という条件を満たそうとする場合、記述②の「立入管理区画による代替」は原則として適用できない、ということになるのです。

本当の姿~レベル4の世界~

では、「DIDでの補助者なし目視外飛行」は絶対にできないのか?というと、そうではありません。

この飛行は、2022年12月の航空法改正によって可能になった、最もリスクレベルの高い「レベル4飛行」として位置づけられています。

レベル4飛行は、「第三者上空での補助者なし目視外飛行」を含む、有人地帯での目視外飛行を可能にするための制度です。

しかし、これを実現するためには、単に「補助者がいない代わりに看板を立てる」といったレベルの話ではありません。

  • 機体認証
    国の定めた安全基準を満たしていることを証明する「第一種機体認証」を受けた機体が必要です。
    機体自身の安全性が極めて高いことが求められます。
  • 操縦者技能証明
    国の定めた試験に合格した「一等無人航空機操縦士」の資格が必要です。
    高い知識と操縦技能が求められます。
  • 運航ルール
    飛行経路下の安全確保や、他の空域利用者との情報共有など、詳細な運航ルール(運航体制)を構築し、遵守する必要があります。例えば、飛行経路直下の第三者の立ち入りを検知するための技術(機上カメラ等)や、万が一の際のフェールセーフ機能などがより重要になります。

このように、レベル4飛行は、機体、操縦者、そして運航体制という三位一体で、徹底的にリスクを管理することで実現される飛行です。

標準マニュアル02にあるような基本的な安全対策や、無人地帯での立入管理区画の設定といったレベルとは、求められる安全基準が格段に違うのです。

複雑だけど理解すれば安全に!

標準マニュアル等の記述を表面だけなぞると、「あれ?できるんじゃないの?」と混乱しがちな「DIDでの目視外」と「補助者なし」の関係です。

その背景には、それぞれの記述が想定している「場所」や「安全確保の前提」の違いがあることをご理解いただけたでしょうか。

  • 包括申請で補助者なし目視外
    第三者の立入りを確実に制限できる限定的な場所。
  • レベル3個別申請
    無人地帯だが、第三者進入の可能性が排除できな場所。(例:長距離インフラ点検など)
  • レベル4個別申請
    DID(有人地帯)での補助者なし目視外飛行。機体認証・技能証明など、最も厳しい要件が必要。

というように整理すると、少し分かりやすいかもしれません。

法令の条文やマニュアルの記述は、一見難解で紛らわしいことも多いですが、その言葉の定義や前提を正しく理解することが、安全なドローン飛行、そして適切な許可取得への第一歩です。

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