繁華街でのドローン空撮飛行映画ロケは『超』難関

 

このページはX(エックス)の投稿を補足解説したブログ記事です。

映画やドラマでドローンを使った迫力ある空撮映像をよく見かけますが、特に人や建物が密集する「繁華街のど真ん中」での撮影は、非常に難易度の高い案件です。

なぜそんなに難しいのか?

なぜ繁華街でのドローン飛行がこれほどまでにハードルが高いのでしょうか。

規制の重なりと環境の複雑さ

繁華街は、ドローン飛行に関する様々な規制が文字通り「重なり合う」エリアであることがほとんどです。

  • DID地区(人口集中地区)
    ほとんどの繁華街はこの指定を受けており、原則として国土交通大臣の許可なしにはドローンを飛ばせません。
  • 人または物件から30m未満
    狭いエリアに建物が密集し、人も多く行き交うため、必然的に人や建物から30m未満の飛行が必要になります。これも許可・承認が必要です。
  • 道路や線路上空
    ロケ場所によっては、主要な道路や線路上空を飛行する必要が出てきます。これも追加で許可や鉄道会社等との調整が必要です。
  • 空港周辺空域/高さ制限
    都市部の繁華街は、空港が近くにあったり、航空路が設定されていたりするため、厳しい高さ制限(例: 水平表面、円錐表面)がかかっていることが多く、自由に高度を取れません。

加えて、環境自体が非常に複雑です。

ビルが林立しGPSや電波が不安定になりやすい、突風が吹きやすい、予期せぬ障害物(クレーンなど)が出現する可能性がある、といったリスクが常に潜んでいます。

超えるべき課題

このような環境で「ロケ空撮をしたい」というご相談を受けた際、私がまずクライアントと一緒に検討を始めるのが、投稿にも挙げた以下のような具体的な課題です。

これらは単なる規制対応リストではなく、安全かつ現実に飛行を成功させるための「壁」となるものです。

立入禁止区画の完全な確保

繁華街は常に人通りが多く、週末や昼休みなどは特に混雑します。

その中で、ドローンを飛ばす範囲、そして万が一の落下時に危険が及ぶ可能性のある範囲(安全確保区域)を完全に「立入禁止」にするのは至難の業です。

これには、十分な数の補助員を配置し、コーン、バー、看板などを設置して物理的に区画を明確にし、さらには通行人一人ひとりへの声かけや誘導を粘り強く行う必要があります。

ほんの一瞬でも誰かが区域内に立ち入れば、飛行は即中断。完全な確保は、人件費、時間、そして何より現場での調整力が求められる最大の壁です。

十分な数の補助者配置

安全確保区域の広さ、形状、そして出入り口の数に応じて、配置すべき補助者の数は大きく変わりますが、繁華街という複雑な環境では、標準的な飛行よりもはるかに多くの補助者が必要になることが多いです。

各ポイントからの死角をなくし、区域全体を常時監視するためには、「足りないよりは多すぎる方が良い」という判断になりますが、これはそのまま人件費の大幅な増加に直結します。

無数で膨大な関係者調整

飛行範囲の真下や、その周辺にあるビル、店舗、施設などの管理者や所有者、テナントとの調整も不可欠です。

彼らに飛行計画を事前に周知し、理解と協力を得る必要があります。

ビル屋上からの立ち入りを防いでもらったり、騒音への理解をお願いしたり、万が一の際の連絡体制を確認したり…関係者の数は膨大になる可能性があり、一つ一つ丁寧な交渉と合意形成が必要です。

商店街であれば、個々の店舗だけでなく、商店街振興組合との全体的な調整も重要になります。

警察と役所と商店組合との調整

ドローン飛行の許可・承認申請は航空局に対して行いますが、それとは別に、管轄の警察署(道路使用許可や警備協力)、区役所・市役所(公園や道路など公共空間の使用許可、住民への広報協力)、そして前述の商店街組合など、様々な関係機関・団体への事前相談、許可申請、協力依頼が必要になります。

それぞれの機関で求められる手続きや書類が異なり、調整に長い時間と労力がかかります。

水平表面高さ制限内の厳守

空港周辺の繁華街では、航空機の安全な運航のために厳しい高さ制限が課されています。

この制限内で、映画で求められるようなダイナミックなカメラワークやアングルを実現しなければなりません。

物理的な高さ制限は変えられないため、機材選定や操縦技術、撮影プランで工夫するしかなく、表現の自由度が制約される場合があります。

現場に合わせた独自マニュアル

航空局への許可・承認申請には、「標準マニュアル」または「独自マニュアル」を提出します。

しかし、繁華街のような特殊な環境での高難易度飛行では、一般的な標準マニュアルだけでは安全性を十分に証明できません。

そのロケ場所固有のリスク(風の巻き込み、電波干渉源、突発的な人混みなど)を詳細に分析し、それに対する具体的な安全対策、非常時対応手順、関係者間の連絡体制などを盛り込んだ、その場所・その飛行のための「オーダーメイド」の詳細な安全運航マニュアルを作成・提出する必要があります。

包括申請はまず無理

このような課題の山を見ると、お分かりいただけると思いますが、繁華街での映画ロケ空撮は、標準的なルールを前提とする包括申請ではまず許可されません。

個別申請で詳細安全計画を提示

許可を取得するためには、上記の様々な課題に対する具体的な対策を、個別の飛行計画として、航空局に対して詳細に説明する必要があります。

前述の「オーダーメイド」のマニュアルや、立入管理・補助者配置計画図、関係機関との調整状況を示す書類など、膨大な資料を作成・提出し、厳しい審査をクリアしなければなりません。

これは、単に書類を揃えるだけでなく「この場所で、この飛行方法で、これだけの対策を講じれば、これだけ安全に実施できる」ということを、論理的に、かつ証拠に基づいて証明する作業です。

実現は険しいが不可能ではない

繁華街のど真ん中での映画ロケ空撮。それは、ドローン飛行に関わる法規制、安全対策、そして関係者間の調整という、あらゆる要素が複雑に絡み合う「超難関案件」です。

しかし、だからといって不可能ではありません。

徹底的な事前調査、関係各所との根気強い調整、リスクを最小限にするための緻密な飛行計画と体制構築、そしてそれらを当局に正確に伝えるための専門的な知識と書類作成能力があれば、実現の道は開けます。

ただし、そのためには時間、労力、そして相応のコストがかかることを、クライアントも私たち専門家も、そして関係各所も理解しておく必要があります。

「ドローンなら簡単にすごい映像が撮れるんでしょ?」というイメージだけでは、決して実現できないレベルのプロジェクトなのです。

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