ドローン空港周辺、制限表面の壁:矢野事務所

ドローン空港周辺、制限表面の壁

 

このページはX(エックス)の投稿を補足解説したブログ記事です。

ドローンの飛行場所に関する規制の中でも、最も厳格なのが「空港周辺空域」です。

この空域は、有人航空機の安全な離着陸を確保するために設けられており、ドローンの飛行は原則として大きく制限されています。

しかし、高速道路が近く物流の利便性が高いため、空港周辺には工場なども多く立地しており、こうした場所でのドローン空撮の依頼が寄せられることも少なくありません。

先日も、まさにそのような「空港周辺飛行許可」のご依頼がありました。対象は工場の空撮で、場所は滑走路からわずか300mの距離、そして標高260mを超える地点。

この場所が、航空機が着陸時に急旋回を行う可能性のある「転移表面」という特殊な空間にあり、ドローンがこの空域で飛行するには、通常の高さ制限を大きく超えることが必至な案件でした。

このような場所でドローンを飛行させるためには、まず管轄の空港事務所に飛行高度と緯度経度を示し、綿密な調整を開始することが不可欠です。

空港周辺の厳しさ

航空法では、空港やヘリポートなどの周辺に「制限表面」と呼ばれる空域を定めており、この表面の上空では物件(ドローンを含む)の設置や飛行が制限されます。

制限表面には、主に航空機の離着陸路に沿って設定される「進入表面」、側方からの進入を制限する「転移表面」、空港周辺の一定範囲を水平に制限する「水平表面」などがあります。

これらの空域が厳しく規制される理由は、何よりも有人航空機の安全な離着陸を確保し、ドローンとの衝突事故といったリスクを回避するためです。

事例にある「滑走路から300m」という近接性は、まさにこの規制の核心に触れる、極めて厳しい条件と言えます。

「転移表面」の理解

今回の事例の鍵となるのが「転移表面」です。転移表面は、進入表面に接続し、滑走路の中心線に沿って設定された帯状の空域の側方から上方に広がる、傾斜した面を指します。

この空域は、航空機が着陸する際に、状況に応じて旋回を行う可能性がある空間として設定されており、その特性上、高さ制限が設けられています。

工場の空撮など、地上の建物や構造物より高い位置でドローンを飛行させる場合、「高さ制限超えは必至」となることがあります。これは、通常の対地150m以上の飛行許可とは異なり、空港の運用安全に直結するため、より高度な安全対策と詳細な空域調整が求められることを意味します。

空港事務所調整の重要性

空港周辺空域でドローンを飛行させるための許可申請は、一般的な特定飛行の許可申請(DIPS 2.0でのオンライン申請)とはプロセスが異なります。

まず最も重要なステップは、管轄の空港事務所との事前調整です。

ユーザー様の事例のように「まず空港事務所に飛行高度と緯度経度を示して調整開始」という流れは、まさに空港周辺飛行許可の実務における鉄則です。

この調整では、以下の点が話し合われます。

  • 飛行日時と期間
    有人航空機の運航計画と重ならないよう、詳細な日時を調整します。
  • 飛行場所と経路
    制限表面や航空路への影響を最小限に抑えるよう、具体的な飛行範囲と経路を確定します。
  • 飛行高度
    最大到達高度を明確にし、必要であれば有人機からの視認性を高めるための対策などを検討します。
  • 安全対策
    機体性能、操縦者の技能、補助者の配置、緊急時の連絡体制など、具体的な安全確保策を提示します。

この空港事務所との調整が、航空局への正式な申請(DIPS 2.0)に先立って行われる重要なステップであり、ここでの合意形成が、最終的な許可取得の可否を大きく左右します。

許可取得の具体的な課題

空港周辺、特に制限表面内での高高度飛行許可取得には、以下のような具体的な課題が伴います。

  • 綿密な飛行計画
    航空機の運航に影響を与えないよう、分単位での厳密な飛行計画が求められます。
  • 極めて厳格な安全確保体制
    航空機との衝突リスクをゼロに近づけるため、高度な操縦技術、高性能な機体、そして複数人によるリアルタイムでの空域監視体制が不可欠です。
  • 時間的余裕の確保
    空港事務所との調整には、有人機の運航計画との兼ね合いもあり、時間を要することがあります。そのため、飛行希望日よりもはるかに早期からの申請・相談が必須となります。今回の事例のように、タイトなスケジュールでは関係者にとって大きなプレッシャーとなります。
  • 専門知識
    制限表面の正確な理解や、空域調整に関する専門知識が求められるため、独力での申請は困難な場合が多いです。

工場空撮の目的であっても、このような特殊空域では、撮影対象だけでなく、周囲の空港運用環境への最大限の配慮と安全確保が最優先されます。

まとめ

空港周辺、特に「転移表面」のような制限表面内でのドローン飛行は、航空機の安全な運航に直結するため、非常に厳しく規制されています。

このような場所での許可取得は複雑なプロセスを伴い、滑走路に近接した場所での高高度飛行は、何よりも航空機の安全確保が最優先されます。

今回の事例が示すように、管轄の空港事務所との綿密な事前調整が、許可取得への最も重要な鍵となります。

ドローンユーザーの皆様は、空港周辺での飛行を計画する際は、必ず専門知識を持つ行政書士等に相談し、十分な時間的余裕をもって、安全かつ適法なドローン運用を心がけましょう。

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