線路・鉄道付近にドローン30m規制なしの誤解:矢野事務所

線路・鉄道付近にドローン30m規制なしの誤解

 

このページはX(エックス)の投稿を深堀り解説したブログ記事です。

線路は「物件」ではない?

ドローンを飛行させる際、航空法上の「人又は物件から30m未満の距離を保つ」という規制は、安全確保の基本原則です。

しかし、この「物件」の解釈が、特に鉄道の線路付近を飛行する際に混乱を生じさせることがあります。

Xに投稿したように、線路は「土地や土地と一体物」であるため、この「物件」には含まれないという、一見すると意外な事実があるのです。

国土交通省の「無人航空機に係る規制の運用における解釈について」によれば、無人航空機の規制における「物件」とは、基本的に「動産」や「定着物」を指し、土地やそれと一体化した自然物としての線路自体は、この30m規制の対象となる「物件」としては扱われません。

つまり、線路の真上を30m未満で飛んでも、単に「物件からの距離が足りない」という理由で航空法違反になるわけではない、という解釈になります。

しかし、これは決して「線路の真上なら自由に飛べる」という意味ではありません。

ここからが、「鉄道の付近」でのドローン飛行の真の複雑さであり、多くの事業者が陥りやすい「罠」となるのです。

「鉄道付近」は一転して飛行禁止?

線路自体が航空法上の「物件」に当たらないと聞くと、少し安心するかもしれません。

しかし、これが「鉄道の付近」となると一転、飛行が極めて厳しく制限され、事実上の飛行禁止区域となるのが実態です。

なぜでしょうか。

その背景には、航空法とは別の、鉄道の安全運行に関わる独自の非常に厳格なルールと、潜在的な危険性が存在します。

鉄道の安全運行を脅かすリスク

  • 高速性による被害の甚大さ
    列車は普通列車でも時速百キロにも達する場合があり、万が一ドローンと衝突した場合、脱線や制御不能といった甚大な事故に繋がりかねません。
  • 突発的な危険
    トンネルやカーブから列車が突如現れるなど、予期せぬ状況が発生しやすく、ドローンが反応する時間的余裕がありません。
  • 電波干渉のリスク
    ドローンからの電波が、鉄道の信号システムや列車無線に影響を与え、重大な誤作動を引き起こす可能性もゼロではありません。
  • 運行への影響
    たとえ衝突がなくてもドローンの存在自体が安全運行を妨げる恐れがあるため、鉄道会社は運行を一時停止するなどの対応を取る可能性があります。これにより社会インフラへの影響が非常に大きくなります。

これらの理由から、国土交通省は「無人航空機の飛行の安全に関する教則」などで、鉄道施設周辺での飛行には極めて慎重な対応を求めています。

そして、各鉄道会社は、航空法とは別に、自社の鉄道施設や運行の安全を守るための独自のルールや事前協議・承認のプロセスを定めています。これら抜きに飛行することは、事実上不可能です。

実務で直面する「個別申請」の壁

「鉄道の付近」での飛行は、原則として包括申請(標準マニュアル02)では許可されません

特定の条件下での飛行を包括的に認める標準マニュアル02は、その性質上、鉄道運行のような極めてリスクの高い環境での飛行には対応していません。

そのため、このような場所での飛行は、個別の安全対策を詳細に検討し、国土交通省に別途個別申請を行う必要があります。

申請事例から見る実務のポイント

この事例は、鉄橋という「物件」が隣接しているにもかかわらず、その真下にある「河川上空」を飛行するという特殊なケースです。

  • 「物件」としての鉄橋と「土地」としての線路
    鉄橋は建造物であり、航空法上の「物件」に該当します。したがって、鉄橋自体からは30m以上の距離を保つ必要があります。
  • 「鉄道の付近」への配慮
    河川上空であっても、鉄橋が鉄道の一部である以上、その付近は「鉄道の付近」という厳しい制約がかかる空域です。
  • 30m除外の具体的な経路設計
    投稿の通り、「両端を30m除外した経路」としているのは、航空法上の物件(鉄橋)からの距離を確保するため、そして鉄道運行への影響を最小限に抑えるための綿密な飛行計画の現れです。これは、単に飛行ルートを決めるだけでなく、リスクを極限まで低減できると判断されたからこそ認められ得る経路設計と言えます。

安全な鉄道付近飛行のための防衛策

鉄道付近でドローンを安全かつ合法的に飛行させるためには、以下の防衛策が不可欠です。

  1. 航空法上の「物件」と「鉄道の付近」の厳密な理解
    線路自体は物件ではないが、「鉄道の付近」は極めてリスクが高いという認識を徹底します。常に「安全な鉄道運行を阻害しない」という原則を最優先に考えます。
  2. 鉄道会社への事前協議と承認の徹底
    飛行を計画する際は、まずその区間を管轄する鉄道会社への事前連絡と承認が必須です。各社のルールに従い、詳細な飛行計画、安全対策、緊急時連絡体制などを提示し、承認を得なければなりません。
  3. 個別申請の準備と詳細な安全計画
    国土交通省への個別申請では、標準マニュアル02ではカバーできない、より詳細な安全計画の提出が求められます。具体的には、

    • 補助者の配置計画: 列車接近時の監視と制止、緊急着陸の指示など。
    • 緊急時の対応手順: 機体トラブルや列車接近時の即時着陸、回収計画。
    • 風速・気象条件の厳格な設定: 鉄道運行への影響を避けるため、通常より厳しい気象条件での飛行中止基準。
    • 電波影響の検証: 必要に応じて、電波干渉に関する専門的な評価。
  4. 現場での徹底したリスクマネジメント
    飛行当日も、常に周囲の状況(特に列車接近の有無)を監視し、計画通りに飛行できるか判断します。少しでも危険を感じたら、すぐに飛行を中止する勇気も必要です。

まとめ

線路や鉄道付近でのドローン飛行は、航空法上の「物件」の定義だけでは語り尽くせない、非常に複雑で高度な知識と調整能力を要する領域です。

線路自体は30m規制の「物件」には含まれませんが、その「鉄道の付近」は、列車運行の安全を確保するため、極めて厳格な制約を受けます。

このデリケートな空域での飛行には、航空法に基づく国土交通大臣の個別申請が不可欠であり、さらに各鉄道会社との綿密な事前協議と承認を得ることが絶対条件となります。

今回の鉄橋の事例は、複雑な地形と複数の規制が絡み合う状況下での、粘り強い調整と詳細な安全計画の重要性を示したつもりです。

ドローン事業者は、安易な判断をせず、専門的な知識と豊富な経験を持つ関係機関と連携し、最高の安全基準を遵守することで、鉄道付近という特殊な空域でのドローン活用の可能性を切り拓いていく必要があります。

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