
建設現場ドローン揚重・安全基準のポイント
このページはX(エックス)の投稿を深堀り解説したブログ記事です。
【揚重ドローン導入+安全基準策定】の実証事業について建設会社様からご相談を頂きました。いずれ入って来るFlyCart100とも相まって揚重用途は今後本格化するが、費用削減や省人化等のICT効果は、揺るぎない安全体制あってのもの…とのお考えです。ゼネコンから採用される品質がゴールです。
— drone高難度申請 矢野事務所 (@drone_nippon) November 1, 2025
このページで分かること
はじめに
建設現場において、揚重用途でのドローン導入がいよいよ本格化しつつあります。
玉掛けやクレーンによる常套的な手段に代わる新ツールとして注目されているドローンについて、今回「揚重ドローン導入+安全基準策定の実証」についてのご相談を受けました。
この記事では、費用削減・省人化というICT効果だけでなく、「ゼネコンから採用される品質=安全体制」を確立するために必要なことを整理し、弊所のプロジェクトが検討している制度的な枠組みから現場運用、チェックリストまでを紹介します。
制度的な位置づけ
無人航空機制度の確認
まず、揚重用途で使用するドローンも、無人航空機の飛行に関する許可・承認等制度の対象となる可能性があります。
例えば、玉掛などはつまり、いわゆる「無人航空機」を飛行させるには、基本的には国土交通省の定める「吊り下げ飛行禁止」のルールに基づいて、必要に応じて許可・承認を取得しなければなりません。
また、例えば、人口集中地区(DID)内や目視外飛行、夜間飛行などを行なう場合は、追加的な許可要件もあります。
実証事業および基準策定の動向
安全基準策定にあたっては、既に複数の実証事業が行われています。
例えば、日本ドローン搬送協会のサイトによると、75kgを運搬するドローンの飛行実証が2024年2月に実施されていて
JDTA 日本ドローン搬送協会 - ドローンでの搬送を事業へ
また、建設現場での重量物運搬用ドローンを活用した試験運用も、株式会社大林組と株式会社SkyDrive が2023年2月に「橋梁建設現場・自動自律飛行」に成功しています。
こうした動向を踏まえると、揚重用途ドローンの安全運用基準は
「現場毎カスタマイズ」+「実証データによる標準化」
がポイントとなってきそうです。
労働安全衛生法との兼ね合い
玉掛けやクレーンは、労働安全衛生法(安衛法)とそれに基づく資格によって厳格に管理されています。
ドローンがこれらを代替・補助する場合、安衛法との関係を明確にする必要も出てきます。
規制のポイント
| 資格の必要性 | 吊り上げ荷重1トン以上のクレーンを用いた玉掛け作業には、玉掛け技能講習修了者の資格が必要です。ドローンが資材を吊る場合、ドローン本体はクレーンに該当しませんが、吊り下げた資材の管理や安全対策においては、従来の玉掛け作業と同等、あるいはそれ以上の安全管理が求められます。 |
| 作業指揮・合図 | クレーン作業では、作業指揮者、玉掛け者、合図者といった役割分担が安衛法で定められています。ドローンで資材を運搬・設置する際も、安全に資材を設置するプロセスにおいて、現場の安全を確保するための作業手順や指揮系統の明確化が必須です。 |
| 立ち入り禁止措置 | クレーンと同様、ドローンによる重量物運搬の下には第三者を立ち入らせない管理が求められます。飛行範囲内への第三者の立入管理等の措置(看板、コーン、補助者による監視)が不可欠です。 |
揚重の安全基準策定に必要な観点
ペイロード・飛行経路の設計
揚重用途では「荷物を持ったまま飛ぶ」または「吊下げ運搬」など、通常のカメラ撮影ドローンとは異なるリスクが存在します。
実証に用いられた機体仕様をみると、最大ペイロード20〜30kg程度、飛行距離数百メートル~数キロ、ホイスト機構付きというものがあります。
obayashi.co.jp+2obayashi.co.jp+2
現場では次の点が設計段階で検討すべき要件ではないでしょうか。
荷物重量+ドローン自体重量の合計で飛行許可の範囲を超えないか
吊下げ荷の揺れ・慣性による飛行制御への影響(特に風のある現場)
飛行ルート上の地上・地構造物・作業員とのクリアランス設計
飛行高度・速度:構造物からの突風・地磁気変動の影響を考慮(実証では構造物近接で突風・地磁気乱れによる難易度も報告あり) obayashi.co.jp
これらを設計段階から整理し、運用マニュアル・チェックリストに落とし込んでおくことが、安全基準策定の出発点です。
運航体制・オペレーター配置
安全基準策定では、機体・飛行ルート設計だけでなく「誰が・どのように運航するか」が極めて重要です。
弊所のプロジェクトでは以下をピックアップしています。
運航責任者(機長)と補助者(吊荷観察・地上監視)を配置するかどうか。吊下げ型の場合、荷振れや振動の監視が重要です。
飛行前点検/荷物固定確認/周囲気象確認(風速・突風予測・地形起因乱流)を実施するチェックリストの整備。
飛行中モニタリング(バッテリー残量、GPS信号状態、通信状況、荷物の揺れ・ずれ)を運航席または地上監視席でリアルタイムに行う。
万が一の異常時の対応(機体異常・荷崩れ・通信断)を想定した緊急手順:荷物の安全な放下、地上への警戒体制、クレーン等回避ルート。
実証事例では、DID(人口集中地区)かつ構造物近接というハイリスク条件で、自動自律飛行を含め安全体制を確立しています。 obayashi.co.jp
このように「人・役割・手順・備え」を明文化することが、揚重用途の安全基準に欠かせません。
現場環境・リスクアセスメント
荷物を飛ばすという点では、従来の撮影・点検用途ドローンとは環境リスクが異なります。
実務的には以下の観点を整理します:
飛行ルート上/着陸(ホイスト荷下ろし)地点の地上・構造物・作業員配置状況:当該空域の地形・風況・近傍建物・仮設物の有無。
吊荷が落下または機体が制御不能になった際の“落下予備域”をあらかじめ設定し、その区域に人が立ち入らないよう立入禁止・柵設置など現場措置。
夜間・悪天候・強風時・隣接線路・高層建築・DID内飛行など“制約付き運航”となる場合の追加措置(夜間灯光・補助者増員・警戒範囲拡大など)。
荷物の着脱・吊下げ機構の信頼性(フック、ホイスト、荷物固定具)および荷物形状・重心位置・振れの把握。
このような環境リスクを整理し、飛行許可申請や社内承認資料に落とし込めば、ゼネコン品質の安全基準に近づくのではないでしょうか。
実証事業から得る“品質採用”の視点
建設現場での先行実証例
上述の通り、建設現場での実証例を押さえておくことは重要です。
例えば、大林組とSkyDriveの「橋梁建設現場・重量物運搬用ドローン試験運用」では、飛行距離約100m、鉛直距離約20m、最大20kg資材運搬という条件で、自動自律飛行(荷下ろしホイスト機構)を実施し、構造物近接・鉄道線路隣接という高リスク現場での運用を成功させています。 obayashi.co.jp
このデータは「現場導入可」の裏付けとして、社内/発注者への説明資料として活用できるでしょう。
品質評価項目として押さえるべき点
「ゼネコンから採用される品質」という観点では、次の評価軸が鍵になります:
再現性:誰が操作しても同様の安全手順・飛行結果を再現できるか
記録・証跡:飛行ログ(飛行経路/高度/荷重量/気象条件/バッテリー状況)を適切に残しているか
インシデントゼロ実績/リスク低減効果の定量化(例:人力揚重作業比での作業時間削減・危険度低減)
現場環境適用力:狭隘ヤード、構造物接近、山岳地など現実条件に適用可能か
標準化可能性:現場ごとに“カスタマイズ”ではなく、ある程度汎用化できる運用ルールを持っているか
これらを社内で“安全基準”および“導入フロー”として整理すれば、建設業界で受け入れられるレベルの品質担保が可能です。
チェックリスト:ドローン導入に向けて
飛行前チェック
飛行許可・承認の要否確認(DID・夜間・目視外など)
荷物重量・重心・形状・固定方法・振れ予測の確認
飛行ルートの地上・構造物・作業員クリアランス評価
気象条件(風速・突風・天候変化)・地磁気・信号遮蔽の確認
機体・ホイスト・固定具・バッテリー・通信の整備状況(ログ有)
地上監視者・補助者の配置・役割・緊急時手順の再確認
飛行中/荷下ろし時チェック
飛行状態(GPS衛星数・バッテリー残量・荷物揺れ)を定期モニタリング
荷下ろし地点立入禁止・安全柵設置・着地振れ防止措置の確認
通信断・機体異常・荷物落下時の即時対応を実施可能な体制維持
飛行後チェック・記録
飛行ログ保存(経路、高度、気象、荷重状態、緊急イベント有無)
インシデント/ヒヤリハット発生有無を記録し、次回運用に向け改善項目を洗い出し
現場作業員・管理者からのフィードバック収集:荷揚げ効率・安全感・運用負荷
次回運用に向けたマニュアル・基準改訂案の整理
最後に
以上、現在弊所にプロジェクトが検討している内容を紹介しました。
揚重用途のドローン導入は、【省人化・コスト削減・効率向上】というICT効果だけでなく、建設現場で「安心して使える」運用体制・安全基準をいかに確立できるかが鍵となります。
制度理解と実証データの活用を通じて、ゼネコンも納得する品質を備えた安全基準を策定し、運用に落とし込んでいきましょう。
今後、弊所のプロジェクトでは、具体的な「申請書類・運航マニュアル雛形・現場稼働スケジュール」のテンプレートも作って参ります。
行政書士矢野法務事務所は「高難度の申請を専門とする事務所」です。 全国の運航事業者やテレビ局、映像会社から「スポーツ中継・高高度・花火大会・空港周辺・ドローンショー・レベル3.5飛行、レベル3飛行、その実証実験等々」包括申請では飛ばせない様々な個別案件の申請をお引き受けしています。期限の決まっている飛行などは特に当事務所にご依頼頂き確実な飛行許可申請をなさってください。 【免責事項】
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