夜間飛行は「規制緩和」でなく現地判断へ移った|矢野事務所

夜間飛行は「規制緩和」でなく現地判断へ移った|矢野事務所

 

2025年3月31日改訂の航空局標準マニュアルでは、夜間飛行に関する重要な変更が行われました。

一見すると「規制緩和」に見える改訂です。

しかし実際には、単純な緩和ではありません。

今回の改訂で起きたのは、「高度同半径」という定型離隔ルールから、「現地確認と飛行経路選定」へ責任が移ったことです。

つまり、固定条件で安全を担保する構造から、現地評価型の安全管理へ主役が移っています。

これは単なる夜間飛行ルール変更ではありません。

ドローン運航全体が、「定型安全」から「判断設計」へ移っている流れの一つです。

この場所で事故にならずに運航できるかは、条件によって変わります。

飛行条件を確認する

旧マニュアルの「高度同半径」ルール

2025年3月30日までの航空局標準マニュアルでは、夜間飛行について、「飛行高度と同じ距離の半径範囲内に第三者が存在しないこと」が求められていました。

つまり、高度150mで飛行する場合、機体を中心に半径150mの範囲を立入禁止区画として管理する必要があったということです。

このルールは非常に強力でした。

逆に言えば、「高度同半径」を確保できれば、安全条件として一定の説明が成立しやすかったからです。

旧標準マニュアル②

(2)飛行高度と同じ距離の半径の範囲内に第三者が存在しない状況でのみ飛行を実施する。

しかし現実には、このルールはかなり厳しいものでした。

飛行高度を上げれば、その分だけ広大な立入禁止区画が必要になります。

敷地幅によって飛行高度が制限される場面も多く、夜間飛行計画を作る際の大きな制約でした。

経路図設計への影響

この高度同半径ルールに基づいて作図すると、飛行経路周辺に広い立入制限範囲を設定する必要がありました。

つまり、夜間飛行では「飛ばせるか」以前に、「半径を確保できるか」が問題になっていたのです。

イベント上空の飛行規制と比較しても、夜間飛行の高度同半径ルールは非常に厳しい条件でした。

イベント飛行では、機体位置から一定離隔で整理される一方、夜間飛行では「高度=半径」で立入制限が必要だったためです。

2025年改訂で何が変わったか

2025年3月31日改訂の標準マニュアルでは、この「高度同半径」ルールが削除されました。

代わりに追加されたのが、「適切な飛行経路を選定する」という記載です。

改訂後標準マニュアル②

(2)日中、飛行させようとする経路及びその周辺の障害物件等を事前に確認し、適切な飛行経路を選定する。

この変更を見て、「規制緩和」と受け取る方も多いと思います。

確かに、固定半径による形式的制約は緩和されました。

しかし、実務的には、ここからが本番です。

定型離隔から現地判断へ移行

今回の改訂で重要なのは、「高度同半径」が消えたこと自体ではありません。

問題は、「適切な飛行経路」という抽象責任へ置き換わったことです。

つまり今後は、なぜその経路が安全なのかを、自分で説明しなければなりません。

なぜその高度なのか。

なぜその飛行ルートなのか。

なぜその第三者管理で成立すると判断したのか。

なぜ灯火視認が可能と言えるのか。

なぜ飛行継続が可能と判断したのか。

これらを、固定半径ルールが代わりに説明してくれる時代ではなくなりました。

つまり、定型安全から、現地評価型安全へ移ったということです。

実は「自由化」ではない

ここで誤解してはいけないのは、今回の改訂が「もう自由に飛ばしてよい」という意味では全くないことです。

実際、新標準マニュアルには、現地確認、第三者管理、補助者配置、立入管理措置、飛行中止、周辺影響評価などが、かなり強く残されています。

例えば、

・飛行場所付近の第三者や物件への影響を、あらかじめ現地で確認・評価すること。

・第三者の立入りが生じた場合には速やかに飛行を中止すること。

・補助者配置だけでなく、立入管理区画による代替措置を取ること。

つまり国交省側も、「自由化」をしているわけではありません。

固定半径という形式ルールを外し、その代わりに、現地で安全を説明できる運航設計を求めているのです。

「適切な飛行経路」の重さ

今回、最も重い言葉は、「適切な飛行経路」です。

これは実務上、かなり責任が重い表現です。

例えば夜間飛行では、単に経路を引けばよいわけではありません。

周辺建物、第三者動線、灯火視認性、離発着場所、補助者配置、立入管理、障害物、緊急着陸可能地点などを踏まえた上で、「なぜそのルートで安全と言えるのか」を設計する必要があります。

しかも、夜間は昼間と違い、視認性そのものが変化します。

そのため、「高度同半径」という単純離隔では整理しきれない場面が多くなります。

今回の改訂は、その現実に合わせて、固定半径でなく、現地評価型へ寄せたとも言えます。

包括申請では説明してくれない

重要なのは、包括申請を持っていても、「適切な飛行経路」は自動では決まらないことです。

包括申請は入口にすぎません。

実際の現場では、第三者管理、視認性、補助者配置、周辺障害物、夜間照明、中止条件を含めて、自分で成立条件を設計する必要があります。

つまり今回の改訂は、「許可取得が楽になった」というより、「運航側の説明責任が増えた」改訂です。

この点は、包括申請でも成立しない飛行とは|矢野事務所でも触れているように、許可だけでは運航成立を説明できないという問題とつながっています。

夜間飛行は運航管理で決まる

夜間飛行では、操縦技術だけでは足りません。

必要なのは、運航管理です。

どこを飛ばすのか。

誰が第三者管理をするのか。

どこで中止するのか。

補助者はどこに置くのか。

灯火はどこまで視認できるのか。

突風時にどうするのか。

これらを事前に整理し、現場で維持し続ける必要があります。

つまり夜間飛行は、「許可があるから飛ばせる」ではなく、「現場条件を維持できるから成立する」へ移っています。

ドローンは操縦でなく運航管理|矢野事務所でも整理しているように、現在のドローン実務は、操縦技術だけでなく、現場全体をどう管理するかへ主役が移っています。

定型安全から判断設計へ

今回の夜間飛行改訂は、「規制緩和」とだけ見ると、本質を見誤ります。

実際には、「高度同半径」という定型安全から、「適切な飛行経路を自分で説明する」判断設計へ移っています。

つまり今後は、固定離隔ルールに頼るのでなく、現地確認、第三者管理、補助者体制、灯火視認性、飛行経路、中止条件を組み合わせて、安全を構造として説明する必要があります。

夜間飛行は、許可取得だけで成立する時代ではありません。

「なぜその飛行が成立すると言えるのか」を、自分で説明できるかどうかが重要になります。

◆ドローン運航は『事後説明』を前提に設計する◆

許可があっても、現場で止まる案件は少なくありません

ドローン運航は「許可が取れるか」ではなく、現場で最後まで成立するかで判断する必要があります。

  • 第三者管理は維持できますか?
  • 監視体制は機能しますか?
  • 中止判断は定義されていますか?
  • 関係者への説明は通りますか?

これらが整理されていない案件は、許可があっても現場で止まります。

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